明日(2021年3月11日)で東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)からちょうど10年。この地震が日本や日本人の災害意識や防災に与えた影響は計り知れずそれは私たちにとっても例外ではありません。

私たちソウ・エクスペリエンスは日々様々なギフトサービスや商品を企画していますが、先日「体験して備える防災ギフト」を販売しました。この商品は、「防災準備のきっかけ」を贈れる防災のギフトです。災害時に80%の人が直面するといわれる在宅避難をテーマに、どんな家庭にも必ず役立つ体験と防災グッズを厳選して紹介しており、贈られた方は必要な防災グッズを1つ選んでお取り寄せできます。

私たちがギフトの商品としてなぜ防災をテーマにしたこの商品を作るに至ったのか、経緯と背景を紹介していきたいと思います。(文/ソウ・エクスペリエンス取締役・矢動丸和典)

ギフトに内在する、行動の後押し

ソウ・エクスペリエンスは体験ギフトをはじめとするギフトを企画販売する会社です。ギフトを贈られた方は陶芸、クルージング、パラグライダーなどの体験や、一流のホテルでの食事やアフタヌーンティ、少しぜいたくなスパなどの体験ができます。

現在では年間で10万人を越える方がギフトを通じた様々な体験をしていますが、日常的に寄せられる体験の感想をつぶさに見ていると、このギフトをきっかけに贈られなかったら選ばなかったであろう体験や行かなかったであろう施設を選んでいることが多く、私たちはこのような、ギフトがきっかけの装置としての役割を持っていることをとても興味深く感じています。

西日本豪雨での気付き

記憶に新しい方も多いかと思いますが、2018年の6月末から7月にかけて、西日本を中心に北海道や中部地方を含む全国的に広い範囲で台風7号および梅雨前線等の影響による集中豪雨がありました。多くの地域で大雨特別警報が発表され、河川の氾濫や浸水害、土砂災害等が発生し甚大な災害がありました。また、全国で上水道や通信といったライフラインにも被害が及んだほか、交通障害が広域的に発生しました。

当時私はその被害状況を伝えるテレビ放送を視聴していました。そこでは、ライフラインが切れた際に家庭にあるものを使ってランタンや食器、防寒具などを作る方法が紹介されており、私の住むエリアは当時災害が発生していなかったものの、せっかくの機会なので作ってみることにしました。しかし、これが思った以上に難しい。今は難しかったで済むかもしれないが、もし自分が災害に直面しているとしたら今以上に冷静にはいられないであろう中で果たして作ったこともないこの臨時防災アイテムを作れるだろうか。これは問題だ、と感じました。

そして日々ギフトのアイデアを考えている中で、ギフトに内在するきっかけの装置としての役割と防災の相性は良いのではないかとの思いはあったのですが、この西日本豪雨をきっかけに具体的な企画を考え始めることになりました。

ギフトは防災のギャップを埋めるきっかけにもなる

災害は今後必ず起こるもの。そのための備えは必要だけど、機会がなかったり必要なものがわからなかったりでなかなかできない人がいる。また、いざという時のための「防災の知識や知恵」も世の中にあふれているが、見ただけではなかなか身につかず、事前にやってみてこそ身につくことも、やる機会がなく備えが十分でないこともある。

必ず来る災害に対して備蓄や訓練が十分にできていないというこのギャップを、やはりギフトで埋められるのではないかと思ったのです。前述の通り、ギフトなら人から贈られたからこそやってみようと思える良質なきっかけになるのではないかと考え企画の骨子を固めていきました。写真は当初の企画書の抜粋です。

防災に関する知識を学び、体験する中で模索する商品作り

社内に企画をあげてからは、専門書や関連書などを読む以外にも自分たちで体験してみる必要があるだろうということで、練馬や池袋などにある防災館や、東京臨海広域防災公園の中にある「そなエリア東京」などで防災の学習や体験をしました。ちなみにこの防災館やそなえりあ東京は無料で防災学習や防災体験ができる施設なのでおすすめです(現在は感染症対策で開催は限定的なようなのでご注意ください)。



また、社内で有志を募って救命講習を受けたり、オフィスの昼食を災害時に見立てて、ペットボトルや新聞紙などを使った簡易的なスプーンや容器などもみんなで作りながら非常食を食べ比べたりもしました。



さらに、私は商品作りと並行して防災士の資格取得もしました(無事に2021年1月に取得できました)。事前の学習と2日間の講習、そしてテストもあるのですがこれも商品を作る上でとても良い経験になりました。


防災の専門家や防災グッズを製造するメーカーにも相談しながら、このように自分たちで調査や体験し、議論を重ねた上で防災の商品を作り上げていきました。

商品のテーマは、在宅避難のための備え

私たちが防災に関する体験や学習、社内での議論を経て商品のテーマとしたのは、大規模災害時に約80%の人が経験するという「在宅避難」の備え。ギフトを受け取った方がこのギフトをきっかけにして、地域や家庭の事情を踏まえてその他不足する備えもしてもらうことで、72時間の在宅避難できる状態になってもらうことを1つのゴールとしています。

災害発生から72時間(3日間)は「72時間の壁」「黄金の72時間」とも呼ばれる特別な時間です。それは食料も水もない状況で人が生命を維持できるとされる目安の期間で、72時間を経過すると生存率が著しく低下します。そのため、この期間は特に自衛隊などの救助支援は生命の危機に直面する方の救出・救助活動が優先されます。

そして災害後の72時間は同時に二次災害が落ち着くまでの目安の期間でもあり、また国や自治体などの支援体制が十分に整うまでの期間でもあります。つまり、災害後72時間を自分たちで生き延びれるかどうかが最初のターニングポイントになります。

その上で、災害発生時に自分がどこにいるかはコントロールできませんが、72時間の避難をする最も理想的な場所は多くの人にとって自宅で在宅避難することです。

家の倒壊や浸水などで在宅困難な場合や、自宅から遠方にいる場合などその状況に応じて避難所等への(一次的)避難をする必要がある状況ではその限りではありませんが、自宅で避難できるのであればそれに越したことはありません。避難所は人であふれてプライバシーが守られなかったり住環境が悪化する可能性が高く、体調を崩す人もいます。

そもそも避難所には私たち全員が避難できるだけのキャパシティはなく、自治体にもよりますが概ね20%〜50%程度です。さらに昨今のウイルス感染対策を考えればより少ないとみるべきでしょう。それでも避難所以外の選択肢がない方は自分たちも含め必ず出てくるので、そういう方のためにも在宅避難ができる方は在宅避難を選ぶべきです。しかし十分な備えがなければそれがかなわないのです。

在宅避難をするためにはその備えが必要です。水や食事はもちろん、懐中電灯や電気やガスなどのインフラが復旧するまでに役立つ道具や知識も必要です。また、非常食を調理して食べること、災害時に使いそうな道具を使ってみること、作ってみることなど、事前に体験・経験しておくこともいざという時に役立つ備えになります。日常ではそんなに難しくないことでも、災害が起きた後の不安定な状況で初めてやるのは難しく感じるかもしれません。災害が起きていない今こそその体験が備えになります。

この商品には、ギフトブックには上記のような在宅避難の重要性や、そこで必ず直面する飲料水、食料の確保とトイレ、暗闇、そして充電の問題について、なぜ防災準備が必要なのかなどが詳しく記載されています。またギフトブックを見ながら、電気・ガス・水道が使えない在宅避難生活が体験できます。さらに、自宅に必要な防災グッズを1つ選んで取り寄せることもできます。
監修は「備え・防災は日本のライフスタイル」をコンセプトに自身が運営するWebサイトや各種メディアへの連載、セミナーを通じて活動する防災アドバイザーの高荷智也さんにお願いしました。

贈る防災を防災のきっかけに

以上がこの商品ができるまでの経緯と背景です。

通常より時間を掛けての商品づくりとなりましたが、社内でも改めて防災のことを考えるよい機会となり、防災の手段の1つとしてギフトには大きな可能性がある思いは日に日に強くなっていきました。

地震や火山噴火、気象災害など日本が災害大国であることは紛れもない事実です。そして災害がいつ降りかかるのか事前に予測するのは困難です。また、大きな災害になればなるほど行政や救助部隊のコントロールは弱まるので、個人や家庭の単位で防災対策をしておくことは非常に重要です。

この商品だけでは十分な防災の備えは完了しませんが、皆さんの身の回りの大切な人の命や生活を守るためにもギフトが一端を担ってそれが防災意識を高め備えを見直すきっかけとしての役割を果たせればこれ以上の喜びはありません。

そして今後も引き続き「良質なきっかけを贈るギフト」を考え商品にしていきたいと思いますので、ご期待ください。