当社は2012年ごろから約8年間、子連れ出勤を認めてきました。小さい組織でなるべくコストをかけずに利益を生むための、「企業のサバイバル術」として子連れ出勤を続け、結果的にとても良かったと考えています。

昨今の新型コロナウィルスをめぐる動きのなかで、子供の預け先に困って働けない方が出て、対応に困っているという相談をいくつかいただきました。そこで微力ではありますが、急遽子連れ出勤を検討している経営者や人事担当、総務担当のみなさまへ参考になればと、これまでの経験をまとめました。

当社は基本的に0〜3歳の子供を連れてくるケースがほとんどなので、現在の課題とややずれることもあるかと思いますが、その点はご容赦ください。

状況によってはオフィス全員の出勤を控えたほうが良いケースも十分考えられますが、一方で子連れでも出勤せざるを得ないときもあると思います。早急な終息が望まれます。それまでのサバイバル術としてお役に立てれば、一企業としてとてもうれしいです。

※2020年2月28日現在の情報です。追加の有効な情報などがあれば、適宜更新したいと思います

▼当社の状況

創業 2005年5月
従業員 約90人(パートタイムスタッフが40人ほど)
出勤時は常に子連れのスタッフ 4人(現在は全員パートタイム)
たまに子連れするスタッフ 15人
オフィスにいる子供の年齢 1〜3歳

当社では日常的に子供を連れたスタッフがオフィスに出勤して業務をしています。現在はパートタイムスタッフの4人が、自身が出勤する際に子供を連れてきます。保育園に入れるのが原則ですが、それができないスタッフが連れています。自転車で通勤したり、バスや電車を利用したりしています。過去にはフルタイムのスタッフも保育園に入れるまでの間、連れてくるなどしていました。もちろんパパママ関係なく連れてきています。

▼子連れ出勤を続けている理由

(1)お金や人手をかけなくていい

当社では専用の部屋を用意したり、シッターや保育士の方を雇ったりしていません。社内託児所を作るという選択肢もあると思いますが、これらは準備・設置・運用にコストがかかり、当社の規模では適切でないと考えています。子連れ出勤は究極的には、オフィス環境をそのままに実施可能です(当社は一番最初、本当に何もしていませんでした)。

(2)出力は下がってもいまのスタッフがい続けてくれる幸せ

子連れすると、どうしても子供の面倒をみる時間があるので、子供の年齢や個性にもよりますが、パフォーマンスは落ちると思います。慣れると勝手に遊んでくれるとはいえ、パフォーマンスが上がることはありません。しかしそれでも、組織にフィットしたスタッフがい続けてくれるメリットは計り知れません。もしも子供の面倒をみなくてはならないという理由でスタッフが抜けてしまった場合、業務フローの見直しや新規採用のコスト・リスクが発生します。当社はこうしたマイナス面を、非常に負担に感じています。

(3)経営上、中長期的に有利

上記の(1)(2)があるため、低いコストで本業に集中でき、優秀な人材が定着して強いチームづくりができると考えているため、中長期的にメリットがあると考えています。

▼運用をするうえで気をつけていること、工夫、気づき

・一番重要なのが、上記の(1)〜(3)のメリットを皆で共有すること

当社は組織が小さいころから、当然のように子連れ出勤をしているのでスタッフの理解度が高いという特徴があります。いま子連れ出勤をしていない組織が突然始めるにはハードルがあると思います。一方で上記のメリットがスタッフの腑に落ちれば、最小限の準備で始められます。設備やルールを検討する前に、組織としてのメリットが説明できることが重要だと考えています。

・原則、親が面倒をみる

会社が子連れ出勤サービスを提供しているわけではなく、「オフィスに子供を連れてきてもいい」という状況をつくっています。連れてきた親が子供の面倒をみるのが原則です。

・食べ物は親から

アレルギーや教育方針など多様なので、「食べ物は親から」というのは社内に明言したほうがよいです。ついついかわいくておやつなどをあげてしまうと、トラブルになるかもしれません。

・土足禁止エリアがあると便利

小さな子供は裸足が好きですし、ハイハイをすることもあります。そこで清潔面、安全面を考慮して土足禁止エリアをつくりました。土足禁止にすることできれいに保たれています。

・ゾーニングすると安心

「子供単体でいていいエリア」「親がいないと入ってはいけないエリア」を設けておくと、親も周囲も安心です。当社は「土足禁止エリア≒子供単体でいていいエリア」にしています。ドアで指を挟んだり、危険なものがあったりするエリアは、親がいないと入ってはいけないエリアにしています。

・家庭のように安全対策

子供単体でいていいエリアは、家庭と同等の安全対策をしています。テーブルの角を養生したり、手足を踏んでしまわないようにローラーがない椅子を使ったりしています。また、刃物や誤飲をしてしまうような物を置かないようにしています。

・柔軟な勤務時間にしておくとストレスない

満員電車に子供を乗せるのが難しい場合や、雨が強くて移動が遅れるなど、様々なことがあります。当社では11時前後〜16時前後の勤務のことが多いです。

・衛生委員会などで情報共有

社内の横断的に集まるミーティングで、定期的に子連れによって困っていることなどがないかを議題にしています。

・リモート、時短勤務などあらゆる働き方とセットで効果的

子連れ出勤について注目していただくことが多いのですが、当社は多くの企業と同様、リモートワークや時短勤務なども実施しています。多様な人ができるだけ自分がやりたいように仕事をし、利益を上げていくことを目指しています。

・時給制のスタッフに「みなしお世話時間」でわだかまりがなくなる

子連れをしているスタッフからの要望で、子連れをするパートタイムスタッフは打刻した勤務時間から一定割合を差し引いて給与計算をする施策をとっています。子供の面倒をみる時間がどうしても発生してしまうスタッフが、めりはりをつけて働けるということで、継続しています。

▼子連れ出勤における課題

・外出が多い場合は困難

当社は内勤のスタッフが多いので、基本的に連れてきた大人が自分で面倒をみることがほとんどです。外回りをするスタッフは、スタッフ同士の信頼関係の元、少しの外出の間、子供をみてもらうなどすることも稀にありますが、恒常的にそれを続けるのは難しいと思います。外出が多い現場では、やはりシッターや保育士の方などが必要になるかもしれません。

・電話がメインの業務は、なかなか難しい

子供はいきなり大きな声を出したり、トイレに行きたいと行ったり、予測不能な行動が多いものです。電話対応が多い職場では、周囲のスタッフがケアをしています。言うことを聞いてくれる年齢だったら問題ないかと思いますが、経験的に1歳半くらいから3歳はなかなか大変です。

・さすがにたくさんいると騒々しい

オフィスの面積と人数に対して、子供が多すぎると仕事が困難になります。弊社は通常、3人程度になるようにシフトをコントロールしています。ただ、突然5〜6人になることもあります。この程度でも、慣れている子供たちであれば経験的に問題ありません。しかしこれがたくさんになってくると、子供同士のトラブルが発生したり、子供に対応する大人が多くてケアしきれなくなる恐れがあります。

▼よくいただく質問

当社は子連れ出勤に興味がある方向けに、オフィス見学会を開催してきました。その際にいただいた質問で、多かったものの回答をまとめました。

Q これまで大変だったことってありますか?

A 子供の年齢次第では、長時間同じ環境にいると苦痛になってしまうことがあります。当社は原則3歳までを子連れ出勤の対象にしていますが、夏休みなどで小学生がくることもあります。スタッフと一緒にミニ四駆で遊んだり、ゲームをしたり、ときには近くの公園に出かけたりすることもありました。

Q 万が一事故があったらどうするの?

A 親の責任において子供を連れてきているので、事故があった場合は(なんらかの明確な過失がある場合は別ですが)親の責任であるということを事前にスタッフと合意しています。ですので、そのための特別な損害保険なども加入していません。

Q 子供が苦手なスタッフがいたら?

A 全員の本心はどうか分からないのですが、当社は幸い、非常に少人数だったころから子連れ出勤を実施しており、そもそも子供が苦手という方は入社しないというバイアスがかかっています。ですので、そうした方への配慮の必要性は現場によって異なると思います。私たちは実施していませんが、ゾーニングを強化するのが効果的かもしれません。

▼子連れ出勤を始めた経緯

きっかけは、スタッフが妊娠・出産をしたことです。本人はなるべく早く仕事に復帰したい、当時10人程度の組織としては業務がぱんぱんなので早く復帰してもらえるとうれしい、でもすぐに保育園に預けられない。「じゃあ連れてきてみる?」というのがきっかけです。これが思いの外にフィットして、その後、「子連れOK」で採用をしてそれもうまくいき、現在にいたります。